那須の緒に寄稿しました

「那須の緒」に寄稿しました。載っている、お米の原稿です。

 

~香り~

田んぼ仕事をしながらこの頃つぶやく言葉がある。香り、である。

きっかけは、お米を購入してくださったお客様から、西岡さんのお米、すごくいい香りがするんですと、お褒めの言葉を頂いたからである。

そのすごくいい香りがどこから来るのか知りたくて、香りか、とつぶやきながら、田んぼの中や土手、伏流水の湧く川のほとりで鼻から深く息を吸う。温度や湿度、季節、一日の中でさえその時々で香りは変化する。

遠く広がる山々から吹く風が運んできてくれた清々しい香り、朝靄の中の湿った土から湧き上がってくる奥深い香り、土手にある草や花からの緑の甘い香り、流れる澄んだ水からは森の木々たちの神々しい香りがする。田植えを終えたばかりの苗に降り注ぐ優しい雨からは、春の訪れを喜んでいる草木の香りが、黄金色に輝く稲穂からは太陽の香りが、田んぼ一面に積もった雪からは、キーンと冷たく研ぎ澄まされた空の香りがする。

風、太陽、土、雨、夜空の星、流れ込む川の水、田んぼを棲みかにしている生き物達や、田んぼへの愛情、そんな田んぼに関わるすべてのものが、複雑に絡み合って、お米の香りを作っているのだと感じる。小さな一粒一粒には、それらがぎゅっと詰まっているのである。炊き立てのごはんをよそったら、鼻から深く息を吸って欲しい。

田んぼのある風景を思い出しながら、お米の香りを味わってみると、稲を育んだものの田んぼの一年を感じることができると思う。

 

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》『那須の緒』第16号